夜の九時にテヘランを発ったバスは、翌朝の六時にタブリーズに着いてしまった。国境の手前にあるマークーの町へ行くバスは八時発だった。僕はターミナルを出て、近くの丘にあがってみた。かつてシルクロードが通っていたこの街は、山に囲まれた盆地のなかに広がっていた。いまは工業都市に変貌を遂げつつあるのか、郊外のバスターミナルの周りにはいくつかの工場が広がっていた。朝の散歩に来ていた老人が声をかけてきた。彼はこちらから訊きもしないのに、周囲の山々の説明をはじめた。
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年をとると、イスラム教徒もお節介になるものらしい。「あれがオンタブロール山、その向こうに白く雪を被っているのがルバル山……」「アララト山は?」「ここからは見えんよ。あと一時間ぐらい坂道を登っていくと、前方に見えてくる。今は雪を被ってきれいだよ」そういわれると気が急くのだ。八時のバスは満席で乗ることができなかった僕らは、相乗りタクシーでマークーをめざした。高度がどんどんあがり、最後の坂道の手前にあるマークーの町は、どこか高原リゾートのような趣だった。